2008年02月26日

足跡はんだん

 むかし、吾妻郡の中之条町はもっとへんぴな長岡というところにありました。
 どうも不便なので寄合のときこんな話がでました。
「なあ、おい。町をもっと便利なところへ引っ越そうじゃねえか。」
「そうだなあ。そうすれば、中之条はもっと繁華になるべえ。」
「引っ越すとなると、どこがよかんべなあ。」
「さあ、どこがいいかなあ。」
 引越した方がいいとわかっていても、いよいよ実行することになると、場所の問題で決めかねました。こんなときは、めいめい、自分たちのつごうのいい方へ引っぱりたがるものです。
 すると一人の知恵のある男がいいました。
「いい考えがあるぞ。俺にまかせておけ。」
「まかせておけって、いつまでまかせておくんだ。」
「まあ、四、五日待ってくれ。今教えるわけにはいかねえ。」
 男がこう言ってから、四、五日たちました。
すると冬のことなので、ある日、空が曇って、チラチラと白い雪が降ってきました。
「やあ、雪だ雪だ。」
「こいつァ、四、五寸つもるらしいぞ。」
 町の人が話し合っていると、ほんとうに雪は五、六寸積もって、よいあんばいに止みました。
 すると町の大勢の人たちは、近郷の人たちも交えて、いろいろの用事のために、表のあっちで、こっちでであいました。
 このときはじめてしばらく待ってくれと言った男が、町の有志たちに、
「すぐ集まってくれ。」
とふれをまわしました。みんなが集まると、
「さあ、ちょうどいい機会だ。みんなで今日、通行人の足跡をしらべてみよう。」
「通行人の足跡ををしらべてどうするんだ。」
「わかったことじゃねえか。通行人が一番多く従来したり、出会ったところへ町を引っ越すんだ。そこがいちばん町として適当なところじゃねえか。」
「なるほど。」
 町の人たちは、この知恵にはすっかり感心しました。そこで、みんなで雪の上にしるされた通行人の足跡をしらべて、一番多いところへ町を引越したそうです。
 いまの中之条町は、こうしてできたのだといわれています。


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Posted by はなもぐ  at 21:00 │Comments(0)むかしばなし

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